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全7章になっています。情報が多いので全部読み込んだ後オフラインでゆっくりお読み下さい。
2、農薬の効果
一口でいうとなんですか? 植物生産、つまりたんぼや畑をやっていると作物にとって有害な様々な生物が発生してきます。それら有害生物から作物を保護するために使われる薬剤を農薬といいます。狭い意味ではそれらの中でも特に雑草・害虫・病原菌を防除するのが農薬です。どんな種類がありますか?【くわしく】 除草剤・・選択性除草剤・・・作物と雑草が生えてる時にまき、雑草だけ枯れさせます。
・・非選択性除草剤・・薬剤のかかった草は全て枯れます。作物のない所で使います。
殺菌剤・・植物の病気を防ぎます。病原菌は主にカビの仲間です。
殺虫剤・・害虫を防除します。ダニを防除する殺ダニ剤もあります。
殺鼠剤・・ねずみなど作物を食い荒らす大型動物を防除します。
その他に植物生育調節剤(作物の背丈を低くするなど)や土壌消毒剤などがあります。いつ頃から使われていますか 19世紀後半にヨーロッパでボルドー液や石灰硫黄合剤という物が使われたのが近代的な農薬の始まりです。1930年代にDDTやBHCなど化学合成農薬が発明され大いに発展しました。日本では明治時代に除虫菊やニコチンなど天然物由来の物が使われはじめ、大正時代にはヒ酸鉛などが使われ始めました。戦後、DDTなどが導入され本格的な農薬の使用が始められました。農薬に関する法律は? 「農薬取締法」で管理されています。農業以外への使用(家庭用・産業用など)は「薬事法」あるいは「化審法」などで管理され農業用とは区別されています。「農薬取締法」で管理されている物が「農薬」であり、正しくはそれ以外は「農薬」の範疇には入りません。しかし、本ホームページでは家庭用なども「農薬」として扱っています。農薬を作っている会社は?【くわしく】 「原体メーカー」と呼ばれる農薬の有効成分を作っている会社と、その原体を製剤して製品を作っている「製剤メーカー」があります。両方をやっている会社もあります。日本では「住化武田農薬」「三共アグロ」「日産化学」「日本曹達」など大手化学薬品会社の農薬部門あるいはそこから分かれた会社や「クミアイ化学」「北興化学」「日本農薬」などの農薬専業会社が主なところです。海外では「BASF」「バイエルクロップ」「シンジェンタ」「デュポン」など日本企業よりはるかに大きな規模で事業を行っている会社があります。製剤とはなんですか? 農薬の有効成分を原体と呼びます。原体をまきやすいように、そして効果がより強く発現するように加工したのが製剤です。風邪薬に有効成分は少ししか入っていないのと同じ様な感じです。どこで売っていますか? JA(農協)で入手するのが一般的です。あるいは農薬を扱う卸や小売店で購入できます。ホームセンターでもよく見かけるようになりました。インターネットで購入することも可能です。農家でなくても購入できます。但し、毒物・劇物に指定されている農薬は署名と印鑑を購入時に提出しなければなりません。どれぐらいの値段なんですか? 農薬の種類や作物によって大きく異なりますが、一般的に10アール(10m×100m)あたり1回につき1000円〜5000円ぐらいです。家庭園芸用の農薬はさらに高価です。どのようにまくんですか? 水田では粒剤という製剤をそのまままくのが一般的です。手でまく場合もありますが散布器を使うのが普通です。粉剤という粉をイネにかけるタイプの製剤を、散布器を用いてまくのも一般的です。またヘリコプターでまく(空散)場合もあります。最近は箱処理と言って田植え前の苗箱に処理することも多くなってきました。
水田以外では製剤を水に溶いてスプレーで散布するのが一般的です。ヘリコプターを使う場合もあります。大規模な農場では専用の散布車が使われることもあります。。身近なところにも使われてますか? シロアリ防除・家庭菜園・ゴキブリ駆除・殺虫スプレー・蚊取りマット・木材防腐処理・クーリングタワーなどの巡回水処理・街路樹・線路や道路の保全・公園の除草・ゴルフ場などで農薬と同じ有効成分が使われている場合があります。日本でどれぐらい使われてますか? 2003年度で約3200億円出荷されました。1999年の集計では水稲用が37%、果樹用が18%、野菜用が30%、その他15%でした。殺虫剤が最も多く、ついで除草剤、殺菌剤の順です。使用量は全般に減少傾向で、特に水稲分野は減反政策や減農薬指向の影響などで減少しています。世界でどれぐらい使われてますか? 1996年度のウッドマッケンジーの調査では1ドル100円で換算して全世界で3兆1250億円。除草剤が50%、殺虫剤が30%、殺菌剤とその他で20%の内訳です。2001年も大きな変動はありません。
国別ではアメリカが28%、日本が12%、以下フランス、ブラジル、ドイツ、イタリアの順です。使用量は増加傾向で、特にアジア・ロシアでの使用量が伸びています。ポストハーベスト農薬とは? 収穫後の作物に使用される農薬のことをいいます。それに対して収穫前に使用される農薬をプレハーベスト農薬と呼ぶこともあります。収穫された作物もカビが生えたり虫に食べられたりして大きな損失を被る事があり、またカビなどが産生する毒素による中毒を防ぐために使用される場合もあります。。ポストでもとプレでも最終的に作物に残留する農薬量が問題ですから、ポストハーベスト農薬だけをことさら問題視してもあまり意味はありません。生物農薬ってなんですか? 「天敵」を人の手でまいてやる方法です。主に殺虫剤の替わりに利用され、害虫に寄生する菌(BT菌)やハチなど、あるいは害虫を食べてしまう虫やダニを工場で人工的に増殖させて作られています。病害を防ぐものや、特定の雑草を枯れさせるものもあります。化学農薬に比べて安全性が高く、減農薬につながるので使用が拡大しています。しかし、高価で使用方法も難しいので、大いに普及するまでには至っていません。フェロモン剤ってなんですか? ある種の昆虫は交尾するためにメスがフェロモンと呼ばれる化学物質を放出してオスを引き寄せます(オスがメスを引き寄せることもある)。このフェロモンを化学合成して、オスを誘引して捕獲したり、フェロモンを大量にまいてどこにメスがいるか判らなくしたり(交信撹乱法)して交尾を阻害します。フェロモンはそれぞれの昆虫によって種類が異なるので、特定の昆虫にしか効果がありません。また効果が発現するのに非常に時間がかかることなどが欠点です。しかし、うまくいくと減農薬などに役立つので期待されています。ジェネリック農薬とは? 農薬を開発した企業はその特許をもっていますが、特許には有効期限があり、その期限が切れると誰でもその農薬を製造しても良いことになっています。しかし、販売するためには、各種試験をパスして登録を得る必要があります。それらをクリアして発売された特許切れ農薬のことをジェネリック農薬といいます。
特定農薬ってなんですか? 2002年に新たに設けられたもので、社会通念的に安全性に問題がないと考えられるもので、農薬としての効果が確認されたものは特定農薬の指定を受ければ農薬として使用して良いということです。現在、食酢・重曹が指定されています。
3、農薬の安全性
殺虫剤はなぜ効くのですか? 殺虫剤といっても色々な種類がありますが、多くの殺虫剤は昆虫の神経に作用して麻痺させたり異常に興奮させたりして、最終的には殺虫効果を示します。昆虫の脱皮を阻害したり、産卵数を抑制する事により防除するIGRと呼ばれる薬もあります。殺菌剤はなぜ効くのですか? 古くからある殺菌剤は非浸透性殺菌剤と呼ばれ、薬剤が葉の上に残り付着した病原菌の酵素を阻害して予防する物が多いです。一方、最近の殺菌剤は浸透性殺菌剤と呼ばれ、薬剤は葉や根から吸収されて予防だけではなく既に植物に侵入した菌にも効果があり治療的にも効くのが特徴です。菌の細胞壁を作る酵素など菌独自の酵素を阻害する物が主です。除草剤はなぜ効くのですか? 実に多くの種類があります。主には植物の成長ホルモンを撹乱したり、光合成を阻害したり、植物独自のアミノ酸合成酵素を阻害します。それぞれにさらに細かい分類があります。作物も雑草も植物には違いないので選択性を出すのは難しいですが、作物と雑草の薬物取り込みの差や薬物が作物だけに分解されることを利用して解決しています。植物生育調整剤の効果とは? 植物生育調節剤はPGR剤とも呼ばれ作物の草丈を低くして収穫しやすくしたり、植物の老化を防いで収穫量を上げたりします。農作業の軽減や品質の向上をもたらす目的で使われています。選択性ってなんですか? 防除する目的生物(害虫・雑草など)と保護されるべき生物との間で毒性を発現する薬物濃度に差がないと農薬は役に立ちません。例えば雑草が枯れても作物が枯れては意味がないし、害虫が死んでも人間に強い毒性を発現しては使えません。この差が大きいと選択性が高い、小さいと選択性が低いと言われます。選択性は農薬研究の進展で年々高まってきています。抵抗性が付くとは? 同じ種類の殺虫剤を連続して使い続けるとだんだん効果が落ちてきて実用性が無くなってしまうことがあります。殺菌剤でも同じで、この現象を「抵抗性」といいます。人それぞれの体質があるように虫や菌にも個体差があり、薬剤の効きにくい体質を持った者がもともといます。それらが生き残り次世代にその体質を残すことになります。その繰り返しで抵抗性がつきます。一世代の短い(寿命が短く世代交代が激しい))ダニ類や菌類は特に抵抗性が付きやすくなります。最近では除草剤に抵抗性を示す雑草も見つかってきています。抵抗性がつくのを回避するには? 違う種類の薬剤を順番に使うこと(ローテーション)により抵抗性の発達をある程度抑えることができます。また生物農薬は抵抗性が付かないと考えられるので一部の分野で期待されています。しかし、抵抗性の発達は遅れても避けることは出来ないので新しい種類の農薬を開発し続けることも重要です。どれぐらいの濃度で効くのか? 殺虫剤、殺菌剤は新しい剤で50〜200ppm、古い剤で400〜1000ppmぐらいの有効成分を含んだ液をまいています。1ha(100m四方の面積)あたり100g〜3000gぐらいの有効成分量です。除草剤も同じぐらいですが、80年代後半に出たスルホニルウレア系と呼ばれる除草剤などは1haあたり50g前後で実用化されています。残効性とは? 農薬は効果が長く持続することが重要です。家庭用の殺虫剤では目の前に飛んでいる虫に直接かけますが、田畑には絶えず有害生物が侵入してくるので、その度にまくわけにはいきません。効果が長続きするとまく回数が少なくて済みますが、長すぎると残留して自然環境に悪影響を及ぼします。理想は作物が芽を出した時にまいて、収穫する頃に丁度効果が切れることですが、実際にはそのような剤はあまりなく残効性は1週間〜2ヶ月程度です。製剤で効果は変わりますか? 同じ有効成分でも製剤方法によって効果が上がったり下がったりします。一般的に高い効果を出すと残効性が短くなり、残効性を長くすると効果が低くなります。徐放化といって、まいた後ゆっくりと有効成分が出てくるようにして残効を伸ばすこともできます。また、2種類以上の有効成分を混ぜ合わせた場合(混剤という)はその組み合わせ次第で効果が変動する場合もあります。
有効成分を効果的に植物に付着させたり吸収させたりするのも製剤の役割です。同じ有効成分でも製剤次第で10倍ぐらいの活性差が出る場合もあり、よりよい製剤方法も研究されています。天候で効果が変わりますか? 農薬をまいてすぐに雨が降るとせっかくまいた物も流れてしまいます。多くの農薬が太陽光により分解するので日差しの強い時期には残効性が短くなることもあります。ある種の農薬は気温により効果が大きく変動することも知られています。その他にも多くの要因があり、農薬の効果と天候には密接な関係があります。
4、農薬と自然環境
安全性ってなんですか? 農薬は虫菌草に効くわけですから基本的に毒であることは間違いありません。科学的には「生理活性」といいますが、この生理活性が虫や菌や雑草に発揮されると「効果」、人間や自然環境に発揮されると「毒性」ということになります。この効果を出すための量と毒性が出てしまう量との差が大きければ大きいほど「安全性」が高いことになります。農薬に必要な安全性は? 農家や農薬工場勤務者など農薬に直接触れる人への安全性、出来た作物を食べる人に対する安全性、作物に対する安全性、蚕や蜜蜂など有用生物に対する安全性、魚や鳥など自然環境に対する安全性などが必要です。それぞれについては以下に説明していきましょう。薬害ってなんですか? 薬害というと「薬害エイズ事件」や「サリドマイド事件」などを思い出しますが、農薬関係では農薬により作物に障害が出ることを言います。天候や使用方法により作物が枯れる場合もあります。また研究段階では薬害が出て開発中止になることがよくあります。よく出てくる単位の意味 安全性データには聞き慣れない単位が出てきます。この単位の意味を正しく知ることは非常に重要なことです。また、独特の略語もあり、説明は長くならざるを得ないので別のページで詳しく説明します。
濃度の単位 重さの単位 単位 読み方 単位 読み方 % パーセント 1/100 kg キログラム 1000グラム ppm ピーピーエム 1/100万 g グラム ppb ピーピービー 1/10億 mg ミリグラム 1/1000グラム ppt ピーピーティ 1/1兆 μg マイクログラム 1/100万グラム ppq ピーピーキュウ 1/1000兆 ng ナノグラム 1/10億グラム pg ピコグラム 1/1兆グラム 急性毒性ってなんですか? 農薬その物を口に入れたり、吸い込んだりした際に短い時間で現れる毒性のことです。どれぐらいの量を取り込めばどのような症状が出るかを調べています。経口(口からの摂取)、経皮(皮膚から)、吸入の3つを調べまず。また、目、皮膚がかぶれないか(刺激性)も調べます。農薬を実際に使う人や製造する人の安全を守るために重要ですが、一般消費者が急性毒性を心配する必要はないでしょう。経口急性毒性が強い順に「毒物」「劇物」「普通物」と呼ばれます。なお農薬中毒による死者は年間1000人前後で、そのほとんど全てがが自殺です。もし急性中毒になったら? 農薬の種類によって解毒方法が違うので、「どの農薬で中毒したか」は必ず調べてから速やかに大きな病院へ行きましょう。また、少し時間が立ってから重い症状が出てくる農薬もあるので、少しでも調子が悪いと感じたら必ず診察を受けましょう。亜急性毒性ってなんですか? 急性中毒するには少ない量の農薬でも、連続してとり続けると蓄積されて急性毒性を発現する濃度に達して中毒することが考えられます。これが亜急性毒性で、通常数日〜数カ月程度で毒性が出る場合を指します。これも経口、経皮、吸入の3つについて調べます。この場合重要なのは、その農薬が蓄積されるかどうかであり、蓄積されない場合はあまり問題にはなりません。逆に亜急性毒性を発現するトータル摂取量と急性毒性発現量とにあまり差がない物は強い蓄積性が疑われ農薬として登録を取得することが難しくなります。慢性毒性ってなんですか? 亜急性毒性を示さない少ない量でも、さらに長期間摂取し続けると身体に障害が出る場合もあります。これが慢性毒性で、各種内臓や器官への障害を詳しく調べます。普通、ラット(大型のネズミ)で2年間とイヌで1年間の両方を行います。催奇形性ってなんですか? 化学物質を摂取することにより生まれてくる子供に奇形が出ることを催奇形性といいます。「サリドマイド」などが催奇形性物質として有名です。農薬はラットとウサギを用いて妊娠中に様々なタイミングで摂取させて調べています。どんな物質でも与えるタイミングと量次第では催奇形性が認められるという説もあります。催奇形性を持つものは農薬として登録できませんが、与えるタイミングと量の概念が重要で、どれぐらいの量なら催奇形性が出るか?の視点が必要です。繁殖毒性ってなんですか? 農薬を摂取した両親から生まれた子供にその後健康障害が出たりすると問題です。農薬では3世代に渡ってラットに摂取させ、各世代に影響が出ないかを調べています。解剖して臓器などへの影響を細かく調べます。発ガン性ってなんですか? 言葉の通り、摂取によりガンが誘発される性質(毒性)のことです。ガンの発生原因は色々考えられ、またなぜガンになるのかもハッキリとは判っていないので、確実に発ガン性を捉える試験方法は現状ありません。農薬ではラットとマウスそれぞれに一生涯(1年半〜2年)摂取させてガンの有無を調べます。日本では急性や慢性毒性を示さない範囲で、最高の濃度で発ガン性が認められれば農薬として使用できないことになっています。つまり、低い濃度で発ガン性が無くてもダメということになりますが、このあたりの基準は国によって多少異なります。変異原性ってなんですか? 細胞には染色体という遺伝子を含んだ部分があり、細胞が増える(分裂する)時に染色体も複製され同じく分裂します。この染色体が農薬により異常をきたすと発ガン性や催奇形性など様々な遺伝異常が起こる可能性があります。そこで、微生物を用いて染色体に異常をきたさないか調べます。しかし、微生物と人間では違う点もあるので、最近では小核試験と呼ばれるラットを用いた試験も行われ始めています。変異原生があることがイコール発ガン性というわけではありません。人間以外に対しての安全性は? 魚毒・・・魚への急性毒性をコイで調べます。水田の多い日本では特に重視されます。
蚕毒・・・もし、農薬が桑にかかった際、その桑を使って育てているカイコに影響が出ないか調べます。
天敵・・・ハチやクモなど害虫の天敵に影響が出ないか調べます。
甲殻類・・エビやミジンコを使って影響を調べます。
後作・・・作物に対しての薬害だけではなく、その田畑を次使うとき(後作)に薬害が出ないか調べます
これらに高い毒性が認められても農薬として認められますが、使用する際に様々な規制がかけられます。ADIってどういう意味ですか? 色々な毒性を調べていくと、どれぐらいの量なら人間が毎日摂取し続けても問題がないかを推定できるようになります。その「一生涯、毎日摂取し続けても健康被害が出ないであろう摂取量」をADIといいます。単位はmg/kgで、体重1キログラムあたり○○ミリグラムという意味です。算出方法は動物実験によりもとめられた「最大無作用量」(なにも健康障害が出ない量)に動物と人間との身体の差を考慮して安全係数1/100をかけます。アトピー(アレルギー)との関連は? アトピーの原因となる物は人によって様々で、花粉や草の汁など植物性の物やダニなど動物性の物、そして化学物質などがあります。農薬がその原因物質になるかという研究はそれほど進んでおらず、実際よく判っていません。大気汚染物質や天然由来物質や医薬品などと比べて、接触する農薬の量はケタ違いに少ないので、農薬が主な原因ではないと考えられます。しかし、農薬が原因になっているケースも全くないとは言えないと考えます。環境ホルモンではないのですか? この分野の研究も始まったばかりで実際よく判っていません。いくつかの農薬が可能性を指摘されています。また、67の農薬が環境省の監視するべき物質(SPEED98)に指定されていましたが、それらは研究の結果問題ないとされ、SPEED98自体が無くなりました。農薬は繁殖毒性試験を行っているのでホルモンに影響を与えてるとすればそこで判るはずです。しかし、精子量の測定などは行っていないので今後はそれらを考慮した試験が行われるものと思われます。複合毒性はないんですか? 一つ一つの農薬のADIを守ったとしても多種類の農薬が身体に入ってくれば、複合的に作用して予期せぬ毒性を発現する可能性が考えられます。全ての農薬に関して組み合わせを全て試験することはあまりにも種類が多すぎて不可能です。ですから複合毒性はないというデータが完備しておらず絶対ないと言い切ることは出来ません。ただ、代表的な農薬10〜20種類を全てADI量動物に食べさせても障害が出なかったというデータがありますのであまり問題はないと考えられています。生体濃縮性ってなんですか? 環境中では薄い濃度でも食物連鎖に紛れて、水より微生物、微生物より魚、魚より鳥といった具合に生体で濃縮されていき、ついには毒性を示す程の量に達してしまうことが考えられます。農薬ではどれぐらい生体に濃縮されるかも調べています。生体濃縮性が大きいものは実用化できません。日本ではDDTなどの農薬はこれが原因で使用を禁じられました。
5、農薬に関するFAQ
魚介類に対する安全性は? 魚毒性試験は農薬原体を一定の濃度に保った水槽にコイ(5〜10センチ程度)を48時間飼育して異常がないか見ます。毒性が弱い順にA,B,Bs,C,Dの5段階に分けられます。Bs以下は水田での使用は要注意となり、C以下だと実質的には使用できません。畑作ではCでも使用されています。現実には魚毒が強い農薬が池に流れ込むなどして、魚に被害が出る事件が起こっています。正しい農薬使用の推進や、魚毒性を小さくできるように製剤を改良するなどが行われています。甲殻類に対する安全性は 実際、自然界で農薬により川エビやミジンコなどに、どれぐらい被害が出ているかはハッキリとはしていません。一部の殺虫剤は甲殻類に強い影響を与えることが判っていますが、総じて大きな問題にはなっていないことは確かです。益虫に対する安全性は? 人間に役立つ虫を益虫と言います。身近なところでは、クモやてんとう虫は害虫を食べてくれる益虫として役立っています。ハチミツを取るためのみつばちや、カイコなども益虫です。害虫を食べてくれる益虫の活躍は想像以上に大きなもので、害虫の活動を抑制する最も大きな原因となる場合もあるほどです。これら益虫に毒性が弱くて害虫だけに効く殺虫剤は理想的といえますが、あまり多くはありません。特によく使われている有機リン剤や合成ピレスロイド剤と呼ばれる殺虫剤は、益虫にもよく効きます。しかし、益虫にかからないようにまく方法などが工夫されています。土壌汚染はないのか? 現行使われている農薬は分解性があり長期残留しないものばかりです。農薬による土壌汚染は目立っていません。しかし、それら農薬の分解物が土壌に残留することも考えられます。重金属を含有した農薬には特にそのおそれがあります。また農薬により土壌微生物が死滅すると、土が痩せてしまい作物の成育に悪影響を及ぼしたり、土壌流亡をまねくなどが起こり得ます。土壌の微生物を殺す土壌消毒剤の使用には注意が必要でしょう。地下水汚染はないのか? 農薬は土壌の表層に吸着され分解されるものが多いので、地下水まで到達するものは少なくほとんどありません。しかし、一部の農薬は地下水で検出されることもあり、問題視されています。地下水中の稀少生物の減少などの報告もあるようですが、人間に対する影響を懸念するレベルではありません。日本は主に河川水を飲用していますが、欧米では地下水の利用も多いのでこの問題に敏感です。ダイオキシンが入ってませんか? 昔使われていた除草剤「2、4、5T」や「PCP」には毒性の高いダイオキシン類が含まれていました。土壌殺菌剤である「PCNB」という農薬に微量(13ppb)の比較的毒性の高いダイオキシンが含まれているという分析結果があります。しかし、いずれも現在は使用されていません。このような農薬が使われていたことは問題があると言えますが、PCNBを使用した田畑の土壌分析や作物の分析結果からは、ダイオキシンは問題のないレベルとなっており、健康被害については心配する必要はありません。環境に蓄積しないのですか? DDTやBHCといった昔の農薬が環境に蓄積して問題を引き起こしたことは有名です。それ以降自然界でどのように分解するかの試験や、亜急性・慢性などの長期毒性試験が義務づけられており、現在では蓄積の心配はありません。 連年使用されている主要な農薬は湖沼などで年中検出されます。これは蓄積しているのではなく、次々に新たな農薬が流れ込んで来ているせいです。
6、農薬の研究開発
安全基準は守られていますか? 農薬を使う農家が正しい使用法を守ることが、ADIなどの安全性を保証する大前提となっています。もし、農家が正しく使っていないとこの前提が崩れることになり問題です。また、農薬をまく人の健康も保証できません。
農家は保護メガネやゴム手袋などする約束になってますが、その着用率は車のシートベルトの着用率ぐらいのようで、守っていない人も結構多いようです。そのせいか農薬散布の際にかぶれたりする事故はちょくちょく起こっています。ただし、昔とは違い農薬自体が低毒性になってきているので、死亡事故など重大な中毒はほぼなくなってはいます。
農薬の使用量自体は大抵守られているようですが、守られていない事例も散見されるようです。公共機関やJA(農協)などが正しく使用するよう活発に指導・啓蒙しているようですが、完全に守られるにはいたりません。消費者もこのあたりに関心を持って監視していくべきではないでしょうか。情報公開が進んでいないのでは? 情報はあるところにはありますが、どこにあるかわからない、あるいは一般の方の手に届きにくい場所にあるかもしれません。日本農薬学会に入会すると年4回雑誌が送られてきますが、この本には新しい農薬の安全性試験データなどが載っています。だれでも簡単に入会できるので、一番手っ取り早い方法と言えるでしょう。その他にもたくさんの本が出ています。また、多くのメーカーが自社の農薬情報をインターネットを通じて公開していたり、農水省などの行政機関も会議の議事録などネットで公開しています。
農薬の製剤成分や製造方法などは非公開になっています。各社のノウハウに関わる部分なので仕方がないでしょう。しかし、今後は公開の方向へ向かうと思われます。ゴルフ場農薬は怖いのでは? このイメージはどうしてついてしまったのでしょうか?食べるものは仕方がないにしても、道楽であるゴルフにまで農薬を使わないで欲しいと言うことかもしれませんね。1990年頃はどのマスコミも連日ゴルフ場農薬の記事を書いていたので(最近全く報道されませんけど)、イメージが固まってしまったのかもしれません。ゴルフ場でも田畑と同様に農薬の使用基準は決まっています。93年の環境庁のゴルフ場排水口での取水調査では、11万検体を調べて基準値オーバーはわずか3件だったと報告されています。ゴルフ場農薬を特別視する必要はなく、田畑に使われる農薬と同じように考えていけば良いでしょう。使用禁止農薬の処分方法は? 過去に使用禁止処分になった農薬はその理由は様々ですが色々あります。それら使用禁止農薬は回収されたはずです。しかし、埋められたり、処分地に放置されたり、農家の倉庫に眠っていたりする物も少なくありません。その一部では周囲の環境に漏れたり、所在が不明になったりなどの問題を起こしています。2001年には国際条約によりDDTなど一部の農薬を処分する必要が生じました。その処分方法など、今後さらに大きな問題へと発展する可能性が大きいと思われます。虫が死ぬのだから人間にも有害? 虫と人間の身体の違いは大きく、代謝系が異なりますし、脱皮もしないし、卵も生まないしと例を上げれば切りがありません。そのような発想は非科学的な感情論だと言わざるを得ません。虫に植物油やビールや塩水などかけて死んだから毒だと言えばどう思うでしょうか。環境保全型農業とは?
- 農薬や化学肥料を全く使わずに農業を営むのは理想的ではありますが、現実的には技術的に難しく、出来たとしても手間がかかるのに収穫量は減ってしまいます。これで、世界の人口を養おうとすると、いまより多くの農地を切り開く必要があり、それは森林の減少や水資源の枯渇(砂漠化)など大きな環境破壊を招いてしまいます。ですから「適度」な農薬や化学肥料の使用で必要十分な収穫を得ることが環境保全につながります。「適度」以上にそれらを使うと、環境への負荷が大きくなり様々な問題を作り出してしまいます。そのバランスを上手く取ることが「真の環境保全型農業」です。「無農薬・無化学肥料」=「環境保全型農業」ではありません。
残留農薬を家庭で落とせるか? 「洗う」ことで2〜8割程度、「煮炊きする」ことでさらに2〜8割程度の残留農薬を減らすことは可能です。しかし、これらの数字は実験的にわざと農薬を残留させた作物で行われており、実際に市販されている作物は残留農薬のレベルは実験よりも数段低く、洗ってもあまり減らないでしょう。神経質な人は、野菜を洗剤で洗ったりするそうですが、科学的には無駄な行為です。栄養素が失われたり、洗剤が残留したりする方がむしろ心配です。化学兵器との違いは? サリンなどの神経に作用する化学兵器と、有機リン系殺虫剤は化学構造も似ており、神経に作用するという点も同じです。しかし、その微妙な化学構造の違いが決定的な差を産み出します。どんな分野の薬品でもこの「微妙な化学構造の違い」が重要なことを理解して下さい。農薬中毒で多数死者が出ている? 農薬が原因で毎年800人前後が死亡しています。そのほとんど全てが自殺です。薬物を用いた自殺は年間数千件発生しており、その内の農薬の占める割合は30%前後?だと思われます。 農作業中の農薬中毒死者は年間0〜数人ぐらいです。その全てが誤用によるものです。昔、毒性の強い農薬が使われていた頃はもっともっと多かったようです。猿の奇形の原因では? 未だにこのネタを持ってくる人がいますが、情報が古すぎます。日本モンキーセンターによる飼育されていた猿山で奇形児の出産が多いという研究とその報道がありましたが、その後の研究では農薬との因果関係は見いだされていません。飼育されている猿山では近親相姦が多くなり、遺伝的に血が濃くなってしまうこと、自然界では本来生きていけない弱い猿でも子孫を残すことが出来ること、が主な原因として考えられています。漢方農薬とは? 最近の無農薬ブームに乗って、漢方農薬などと称する物が出回っています。草木の抽出物などとの触れ込みですが、一部の商品には化学農薬が意図的に混入されていたり、あるいは全く効果が無かったりなど、怪しいものも出回っています。概ね信用できない物と考えて差し支えないようです。シロアリ駆除で健康被害? 現在のシロアリ駆除に用いられる薬剤は色々ありますが、大別して有機リン系とその他に分けられます。有機リン系は価格は安いが、体質によっては気分を悪くする人がいるようです。また、異臭を伴うこともあります。気になる方は値段が高くても新型薬剤を用いた処理を行うべきでしょう。天然物の利用が好ましいのでは? 化学農薬に変わる物として、天然物の利用が行われています。天然物から得られる化学物質を利用する方法と、天敵など生物を利用する方法に分けられます。現状では技術的、経済的な問題点を抱えており化学農薬に取って変わる存在にはなっていませんが、天敵利用(生物農薬)は伸びてきています。今後の研究開発が待たれますが、すべての化学農薬がとって変わられることはないでしょう。
7、農薬の豆知識
新規農薬が世に出るまで 農薬会社の研究所では、新しい農薬を見つけだそうと激しい研究開発競争が行われています。新しい化学物質を作り、虫や草にかけて効果を確認し、良い物が見つかれば安全性試験を行い、大量生産する技術を確立し、より使いやすい形に製剤します。全ての試験に合格して、お役所に書類を提出し認可されてやっと農家の手にわたります。どんな仕事があるのか? 化学・・・新しい化学物質の創出。天然物質の探索。大量生産法の確立
製剤・・・農薬の効果を最大限に引き出すよう、処方を研究する
生物・・・虫菌草を育てる。かけて効果を試す。大規模な圃場試験を行う
安全性・・動物を育てる。動物実験を行う。環境中での農薬の動きを調べる
作用性・・なぜその化合物が効果があるのか、詳しく調べる
開発・・・農家のニーズを掴む。共同研究先を探す。
特許・・・特許を取る
業務・・・間接支援。予算をとってくる
などがあります。どれか一つでも欠けると成り立ちません。どんな人がやっているのか? 男性が60〜80%ぐらい。ほとんどが大学または大学院卒で、博士号を持ってる人も珍しくはありません。京大、名古屋大など農学部や農芸学部がある大学出身が比較的多い。意外と年輩の人が多く、主力は30代。いわゆる理系な人が結構多くて、女性が少ないせいもあり、宴会などでのノリは事務系や営業系の会社とはだいぶ違う。業界全体が不況なので給料は結構安い。売上300億円ぐらいの規模の会社で研究員は50〜100人ぐらいが普通。どれぐらい金がかかるか 農薬研究には莫大な金がかかる。一つ開発するのに30億〜50億円必要と言われています。年々試験項目が増え、開発費も増えてきています。売上高/研究費比率は6〜10%ぐらいです。どれぐらい時間がかかるか? 最初に有望化合物を見つけてから、早くて7年、遅ければ20年。一般的には10年ぐらいかかります。かなり気のながい仕事です。特許の重要性 研究開発で最も重要なのは、発明した農薬の特許を素早く取ることです。良い物を「早く」見つけ、なおかつライバル会社にマネされないようにしなければなりません。しかし、特許を世界中で取ろうとすると数百万〜数千万円かかるので慎重にやる必要もあります。成功する確率は? 新規化合物5万個に1個の割合で成功すると言われています。昭和30年代頃は300個に1個と言われていたそうです。一人で作れるのは年間せいぜい200個ぐらい。25人の化学者で年間5000個として、10年に1つ成功すればまぁまぁというところです。成功の秘訣は? なんかありましたら教えて下さい(笑)
日本で一番売れている農薬は? 日本は稲作の国なので、水田用の農薬の出荷量が多いです。殺菌剤ではイネにとって最大のライバル?であるイモチ病を防ぐ「オリゼメート(化学名:プロペナゾール)」(明治製菓)が、殺虫剤では最も被害を与えるウンカを防ぐ「アドマイヤー(化学名:イミダクロプリド)」(日本バイエル社)が、除草剤では少量でほとんどの雑草を枯れさせイネには害のない「(化学名:ベンスルフロン)」(デュポン社)を含んだ除草剤がトップです。
その他の分野も含めると、果樹園や非農耕地で使われる除草剤である「ラウンドアップ(化学名:グリフォセート)」(モンサント社)の出荷量が多く、全ての分野を合わせてもおそらく日本で一番売れている農薬はこの「ラウンドアップ」でしょう。世界で一番売れている農薬は? 世界的に見ても「ラウンドアップ」は売れています。特に除草剤抵抗性作物(遺伝子組み替え大豆など)が出現して以来、売上を大幅に伸ばしており、全世界で4000億円ぐらい売れていると言われています。これ程売れている化学薬品は、医薬の分野でも3〜4個しかなく、ファインケミカル分野での巨人といえるでしょう。農薬でノーベル賞を取った人 ポール・ミュラー。ノーベル医学生理学賞(1948年)。
スイス人でガイギー社(現ノバルティス社)の研究員時代にDDTの殺虫効果を発見した。1965年、ミュラーはこの世を去ったが、それと時を同じくして1962年に「サイレントスプリング」が出版されDDTが没落していくのは皮肉めいた巡り合わせです。世界一大きい農薬会社は? 【くわしく】 シンジェンタ社が売上高で世界一大きな農薬会社です。大規模な合併により誕生した新しい会社です。ちなみに日本で一番大きいのは住友化学で農薬分野は1000億円程度の売上です。農薬という言葉はいつ出来た? 明治時代から大正時代にかけては「農業用薬剤」などが使われ「農薬」という言葉はなかったようです。昭和初期から使われるようになったようで、「日本農薬株式会社」が誕生したのが「農薬」という言葉が世に広まったきっかけのようです。世界初の農薬は? 【くわしく】 紀元前1000年頃から硫黄や植物の絞り汁などが植物保護に用いられていた、という記録もあるそうです。硫黄は現在も農薬として使われているので、世界初の農薬といえるでしょう。
硫黄は天然に産する鉱物であり、また、DDTやヒ酸鉛など歴史的な殺虫剤も農薬になることを意図して作られたわけではありません。最初から農薬になることを意図して作られた物は、1940年代後半のテップでしょうか。ドイツ軍が開発した化学兵器を元に、殺虫剤を作ろうと研究がスタートしたそうです。江戸時代にも使われていた? 【くわしく】 昔は害虫は神仏からのたたりだと考えられ、祈祷やお祭りなどで害を防ごうとしていたようです。もちろんなんの効果もなかったはずです。奈良時代にはすでに「農薬」があったようですが、効果はなかったでしょう。江戸時代に入って各地に農学者が現れ始め、害虫を追い払う薬や農法などが研究され、多くの「農薬」が発明されたようですが、いずれもその効果はあやしいものでした。そんな中で効果があり大々的に行われたものとして「注油法」があります。油を水田にたらすと水面に油膜が出来ます。そしてイネを棒などではらっていくと、付いていた虫は水面に落ちて、油にからまれて窒息死するという方法です。