家庭用殺虫剤
1,家庭用殺虫剤と農業用殺虫剤の特性の違い

 農業用殺虫剤も家庭用殺虫剤も虫を殺すことについては同じことです。 しかしその目的の違いから使われている有効成分も異なります。

家庭用 農業用

 家庭用は直接虫にかけるので持続性は必要なく、安全性を考慮するとむしろ速やかに分解する方が望ましい。また、かけてすぐに死なないといけません。ゴキブリや蚊、ハエ、、場合によっては蛾やハチにも使われるのでなんにでもよく効く剤が好まれます。それらを兼ね備えているのがピレスロイド系です。ピレスロイドを浴びた虫は走光性といって光のある方向へ行こうとしますので明るいところで死んでくれる(人の見えるところで死ぬ)のも有利な特性です。

 一方、農業用は作物に薬をかけますから、作物に薬害を出さないことがなんといっても重要です。まく量が多いので低価格であることも重要です。対象昆虫は限られていますが、効果の持続性に優れていなければなりません。

 (●:大変重要 ○:重要 △:必要 ×:気にならない)

即効性 早く効く
高活性 少しでも効く
効果持続性 × 長く効く
広スペクトラム 何にでも効く
価格 × 値段が安い
急性毒性 まく人の安全性
慢性毒性 食べる人の安全性
環境毒性 環境に対する安全性
作物に対する薬害 × 作物の安全性
2,家庭用殺虫スプレーの成分は?なぜ効くんですか?毒性は?

 殺虫剤と言っても多くの種類がありますが、一般的な殺虫スプレーの成分はレスメトリンで、ピレスロイド系殺虫剤と呼ばれるものです。成分名の最後が「〜〜スリン」か「〜〜トリン」のものは大抵ピレスロイド系です。
 神経系に作用する薬です。神経細胞に作用して、常に興奮状態が続くようにしてしまう作用がピレスロイドにはあります。

 ハエなどに殺虫剤をかけると、ぽとっと落ちて、ジジジーーーと異常に羽ばたく回数が多くなっていることに気づくと思います。あれは神経が興奮し続けて、筋肉が緊張しっぱなしになり、硬直化して痙攣しているのです。

 人間も虫も神経の構造はそれ程変わらないのですが、薬物が神経に届くまでに解毒してしまう機能が、人などほ乳類にはあるので毒性は低くなっています。
 他にも多くの殺虫剤がありますが、ピレスロイド系は「すぐに効く」「不安定(残留しない)」「人間に対する毒性が非常に低い」「どんな虫にも効く」といった利点があり、家庭用によく用いられます。かとり線香やかとりマットも同じ成分が使われています。

 毒性が弱いといえども多用は禁物です。特にかとりマットは決められた用量を守って下さい。たくさん使っても効果は上がりません。ゴキブリ一匹にスプレー一本使った・・・・なんて話も聞いたことがありますが、危険です。特に子供のいる家庭では気をつけて下さい。
 あと、殺虫スプレーを虫が死ぬまでかけ続けるのも無駄です。いくら即効性があるとはいえ、瞬時に死ぬわけではありません。少しでもかかっていれば、しばらくすると死にます。

 殺虫スプレーの毒性は(家屋害虫2 日本家屋害虫学会編)

 マウスに対する急性吸入毒性は
    アレスリン で 1立法メートルあたり2000mgでも大丈夫。
    d−T80レスメトリン で 同 1560mgでも大丈夫とのことです。

 燻煙剤(蚊取りマット)の部屋の中での成分量は、6畳の間ぐらいの空間で30〜50mg/立法メートルぐらいのようです。そして、蚊取りマットを消すと2時間後には1/5から1/8ぐらいに有効成分濃度は減少するようです。

 このデータから考えると、殺虫スプレーの通常使用で中毒になることは、まず考えられません。しかし、通常の使用量以上、例えば一部屋に蚊取りマットを2個つけ、その中に赤ちゃんなど薬剤に弱い人がいると、中毒症状が出る可能性があり、事故例もあります。くれぐれも用法を守るようにしましょう。

3,網戸に虫がついたからって・・・・

 最近、網戸に虫が付かないようにするスプレーが流行っております。CMの人気のせいもあるでしょう。ところで、このスプレーの有効成分は、合成ピレスロイド系殺虫剤と害虫忌避剤のディートです。ともに毒性は低く、特に健康被害を懸念する必要はないことは事実でしょう。しかし、風が網戸を通って室内に入ってきますので、当然それら成分、特に気化しやすいディートはかなりの量が部屋の空気に混ざるでしょう。
 このスプレーを使う人は都会人で、虫を嫌う女性(主婦)が主だと思います。これらの人は一般的にダイオキシンだ、環境ホルモンだ、残留農薬だ、アトピーだ・・・など心配している層と一致すると思われます。片方では極微量のそれら物質に心を砕いておきながら、もう片方では、はるかに多量の化学物質をまいているのは矛盾しています。
 虫避けが目的の網戸に虫が付くことぐらいガマンしてはどうなんでしょう。それだけでも使用される化学物質の減少、というかこれ以上の増加を防げます。
虫除けスプレー

 「虫避けスプレー」など虫よけ製品の主成分はDEETです。

 日本中毒学会の機関誌によればDEETは、経口急性毒性は低く普通物。それは良いとして、意外と経皮毒性が高く、皮膚吸収も早いそうです。もちろん通常の使用では問題ありません。軽度の眼刺激性があり、眼に入らないよう注意が必要です。
  事故事例(日本中毒学会編:中毒研究98年2号より)として、
・5歳の小児がDEET含有製品を全身に2回塗布された後、突然全身性痙攣を起こし、広範囲な脳障害の脳波パターンが観察された。
・3歳の小児がDEET製品を毎日2週間にわたり塗布され,脳障害が発現した
 とりあえず、毎日使うのはやめましょう。必要なときだけ使う。また、忌避作用は塗ったところ周辺に及びますので、全身にくまなく塗る必要はありません。適当な感覚で、パッパッパッとやった方が経済的にも良いでしょう。
・・・余談・・・ 殺虫剤関連のホームページを見ていると「殺虫剤は好ましくないので忌避剤を使おう」というのをホントによく見かけます。あらゆる毒性面で、ピレスロイド系殺虫剤の方がDEETより安全性は高いので、誤った情報に惑わされないようにして下さい。
よく出てくる単位の意味
濃度の単位  環境分析や安全性評価でよく出てくるppm(ピーピーエム:英語の「parts per million」の頭文字を取った物)は100万分の1を、ppb(ピーピービー)は10億分の1を、pptは1兆分の1を表します。ですから0、001ppmと1ppbと1000pptは同じ濃度を表している事になります。

 どれぐらいの濃度を表しているか、わかりやすい例で説明すると、50mプールに小さじ1杯の塩を溶かすとだいたい1ppb、数粒の塩を溶かすと1pptぐらいになります。面白い例えでは1ppbはテニスの試合を120万回した中の一振り、1pptは2000両の貨車に積んだ小麦の1粒に相当します。


 ppmなどは「重さ/重さ」「体積/体積」のように同じ単位同士での割り算で求められます。同じ単位同士でない場合、例えば「重さ/体積」の場合はmg/リットルのように表します。しかし、水道水や河川の分析データなどは1リットルの水を1kgと考えてmg/リットルをppm、μg/リットルをppbと考えても良いでしょう。
単位 読み方
パーセント 1/100
ppm ピーピーエム 1/100万
ppb ピーピービー 1/10億
ppt ピーピーティ 1/1兆
ppq ピーピーキュウ 1/1000兆
重さの単位  日常生活でよく使う重さの単位はg(グラム)やkg(キログラム:1000g)あるいはt(トン:1000kg)でしょう。小さい重さを表す単位として「mg」(ミリグラム)は1000分の1gを、「μg」(マイクログラム)は100万分の1gを、「ng」(ナノグラム)は10億分の1gを「pg」(ピコグラム)は1兆分の1gを表します。ですから、例えば0、001μgと1ngと1000pgは同じ重さを表していることになります。

 1μgがどれぐらいの重さか想像できるしょうか?A4サイズの普通の白い紙を1枚用意して下さい。それで約5gです。ハサミで半分に切ると2.5g、それをまた半分に切ると1.25gになります  。その要領で最初から数えて12回切ると約1mgの紙片が出来ます。さらに10回切ると約1μgになります。さらに10回切れば約1ngになります。どこまで切ることが出来るでしょうか?小さな重さをイメージするために、ぜひ試してみて下さい。
単位 読み方
kg キログラム 1000グラム
g グラム
mg ミリグラム 1/1000グラム
μg マイクログラム 1/100万グラム
ng ナノグラム 1/10億グラム
pg ピコグラム 1/1兆グラム
 分析データを見ていると、ときどき「ND」とか「検出限界以下」といった表現を見ることがあります。各種分析方法で検出されなかった場合、0とは考えず、分析できる最低濃度以下と考えます。農薬の場合、NDはその分析方法での分析可能最低濃度の20%はあると考えることになっています。

 時々、5×10-8g(5かける10のマイナス8乗グラム)といった表現を見かけることがあります。これは指数表示と呼ばれ、「0」がたくさん並ぶと書く方も読む方も非常に煩わしいので指数表示が使われることがあるのです。5×10-8gなら5の前に0を8個つければいいので、0、00000005gとなり、50ngと表現しても同じ事です。
農薬の使用量実態
1,農薬の需要や供給量を調べる方法

 世界の農薬使用量を知るには「ウッドマック」という年1回出るアメリカの本が一般的です。たくさんの業種を分析していますが、その中に農薬企業の項があり、かなり詳しく述べられています。日本企業もその中に入っています。隔週で出ている「Agrow」という雑誌も便利です。共に英語です。
 日本だけなら毎年発行される農薬要覧にこと細かく述べられています。

 一つ注意したいのは農薬の製造量は製剤された後の重量で表されています。例えば、水田用の粒剤は10アールにつき3キロまくように統一されています。ですから投下薬量(原体量)が問題となる環境科学においては、使用された製剤の量と含有濃度から、原体量を計算しなければいけません。また同じ原体でも商品名が違ったり、混剤(数種の原体があらかじめ混ぜてある剤)もあるので、投下原体量を計算するにはかなりの知識が必要です。
 最近、水田用の粒剤は10アールあたり1キロと変わってきたので、製造量が一気に減少しています。しかし、1キロ粒剤は原体量が3キロ粒剤の3倍入っているので原体量は変わっていません。こういった点にも注意が必要です。

2,日本の農薬のマーケットサイズ

 売上高の方はここ数年は減少傾向で約3500億円程度と言われています。
内訳は水稲用が約40%、果樹用が約18%などとなっています。水稲用は減反の影響などで年々減少傾向。果樹用野菜用は横這い傾向です。

 用途別では殺虫剤が28%などとなっています。最近は殺菌剤と殺虫剤が最初から混ぜてある農薬が水稲分野で急速に普及しています。殺虫・殺菌剤の割合が多いのは日本の特徴で欧米では除草剤が50%以上を占めます。

1999年農薬工業会出荷額

1999年農薬工業会資料出荷額
3,個別の農薬使用量
 市場に並んでいる各作物の農薬使用量がどれぐらいかを知るのは難しいことです。作物種によっても、産地によっても、そして農家ごとに使用している農薬の種類と量は違います。作物別に産地ごとに「防除歴」というものを発行しており、それを見ればどれぐらい農薬を使っているかだいたい見当はつきます。
 あくまで一般論として、稲作では田植え前の苗の時に殺虫殺菌剤を1回、田植えしてから除草剤を1回、その後様子を見て、殺虫剤を0〜2回、殺菌剤を0〜2回ぐらいまきます。
リンゴやナシなどの果樹では1年間に10〜30回程度、キャベツなどの地上モノでは10〜40回程度、ジャガイモなどの根モノなら5〜15回程度でしょう。もちろん、例外はたくさんあります。
4,稲作の生産費に占める農薬代の割合

 農薬に使う費用が稲作にかかる費用のどれぐらいの割合になっているかを示したのが右のグラフです。農薬費は6%を占めており馬鹿にできませんが、それでも農機具費や労働費に比べれば負担は小さくなっています。

 このデータは見方を変えれば、無農薬栽培を行っとして農薬費の6%分のコストは下げられるが、その分農機具費や労働費は増えるので経済的には割にあわない
とも読めます。例えば除草にかかる労力は除草剤を使った場合は使わない場合に比べて20分の1以下になると言われているからです。

1993年農水省データ
残留農薬を家庭で落とす
1,調理で農薬は減る
 農薬といってもいろいろな種類がありますので、正確にはどの作物にどの農薬が残っているかによって話は変わってきます。話を簡単にするため代表してジャガイモとピーマンについてみてみましょう。データは主に「食品中の残留農薬平成10年版」(厚生省)「残留農薬の調理加工による減衰」(伊藤誉志男ら武庫川女子大グループ)からとりました。
 じゃがいも、ピーマンにわざと0.1〜1ppm(残留基準値程度)の農薬を添加して、実験しています
じゃがいも ピーマン
洗浄 農薬により除去率はことなり、水洗いで39〜99% 水洗いで26〜47%
ゆでる 64〜98% 28〜85%
皮むき ほぼ100%
揚げる 一部を除きほぼ100% 一部を除きほぼ100%
炒める 72〜100% 61〜93%
2,実際の残留量
 じゃがいもにはどれぐらい農薬が残留しているのでしょうか?平成9年度の調査結果では約8000点ぐらいの分析を行って何らかの農薬が検出されたのが12件となっています。99%以上のじゃがいもから農薬が検出されなかった(検出限界以下)ことになります。
 ピーマンも約3000点ぐらいの分析を行って何らかの農薬が検出されたのが42件となっています。約90%以上のピーマンから農薬が検出されなかった(検出限界以下)ことになります。
3,家庭で残留農薬を減らすことに意味はない
 データを見ると水洗いだけでも農薬が3割〜9割以上も減っています。ただし、実験時の洗浄方法を見てみると、ビンに作物と水を入れて1分間に100回振り混ぜることを水を換えながら5分間行っています。家庭でこんなに激しく長時間野菜を洗う人はいないでしょう。ですから、普通の洗浄による除去率はこのデータを大きく下回るものと思われます。調理は一般的な方法で実験しているので、このデータ程度は減っていることでしょう。皮をむくことがもっとも効果的であることがわかります。
 しかし、これらのデータはわざと農薬をふりかけた作物を使っています。実際には9割以上の作物から農薬が検出されていませんし、検出されても添加量の10〜100分の1のレベルです。ですから、農薬を減らす意味で水洗いしてもほとんど意味がないと言えるのではないでしょうか?
農薬税
 ノルウェーでは1998年から「農薬税」というものを農民に課しています。フランスでも1999年に「農薬による自然汚染税」というのが国会で通ったそうで、2000年4月からスタートしたそうです。それによれば、農薬の有効成分の種類によって課税ゼロから,有効成分キロあたり2.5フランからはじまり11フランまでの6段階課税制度となっているそうです。
 フランス農薬全体の40%が自然環境に与える悪影響が無いという理由から無課税になり、逆に言うと6割の農薬にはいくらかの税金がかけられたということです。この税金はその農薬を使う農家が払うそうで、おそらく製品価格に税金が織り込まれることになり、それを農家が買っていると想像します。
 日本でたとえれば、古い有機リン剤は1本あたり税金100円、新しいIGR剤なら無税・・・といったイメージでしょう。
 一方、イギリスでもフランスでの成果を見て「農薬税」の導入を本格的に検討しはじめたそうです。イギリス大蔵省と農薬業界との間で具体的な詰めの議論も行われているとのこと。おそらくフランスと同じような内容で成立するものと思われます。
 この動きは英仏を発信地として、欧米はもちろん日本にも影響を及ぼすでしょう。しかし、日本では一足飛びに農薬税の導入とはいかないと思います。農薬登録は人体・環境などに悪影響を与えないという前提で下されており、そうでない場合は登録を認可しないか、使用に際する注意を記載することになっています。ですから農薬の種類による環境への影響度を評価することは考えられていないのです。仮に劇物は課税、普通物は無課税といった規定を作るとすれば、消費者や農家は税金かけるぐらいならいっそ農薬登録を取り消せば?と提言するでしょう。
 また、たてわり行政の問題もあるでしょう。農薬を認可する農水省、環境影響を見る環境庁をさしおいて、大蔵省が農薬の種類別に税金をかけることはちょっと考えられないと思います。
 製剤の種類
 農薬は有効成分(原体と呼ぶ)を使いやすいように製剤した物が販売されています。通常、この製剤をそのまま、あるいは水で薄めて田畑にまきます。色々な種類がありますのでそれぞれ簡単に解説します。
乳剤  最も基本的な製剤。原体を有機溶媒と界面活性剤に溶かしたものです。使う際には、数百から数千倍に水で希釈します。場合によっては、安定剤(酸化防止、PH調節など)なども加えられます。有機溶媒にはキシレンやナフトールなどが使われます。有機溶媒は臭い・燃えるなどの欠点があり、減少傾向です。
フロアブル  原体を非常に細かい粉末(0.1〜10ミクロンぐらい)にし、水に分散させたものです。使う際には、数百から数千倍に水で希釈します。乳剤の欠点(臭気、可燃性)を補うものとして急速に普及しています。分散剤、凍結防止剤、安定剤などをが加えられています。
粒剤  粘土などに原体を練り込んで、細かな粒(1〜5mmぐらい)にしたものです。そのまま、土にまきます。粒剤は水田での使用に適しているので、日本ではよく使われています。
水和剤  細かい土(クレイ)や鉱物などに原体を吸着させたものです。使う際には、この粉を数百から数千倍に水に分散させます。水とのなじみをよくするために、界面活性剤などが加えられています。
水溶剤  原体が水に溶けやすい場合に使われます。原体と増量剤でできるし、クリーンで好ましい製剤ですが、水に溶ける原体はごく限られています。
粉剤  細かい土(クレイ)と原体を混ぜたものです。水和剤とは異なり、この粉をそのまま作物にかけます。まくのが面倒なので、最近は使用量が減少してます。
MC剤  MCとはマイクロカプセルのことです。原体を非常に小さい(ミクロンレベル)カプセルに封入し、そのカプセルを水に分散したものです。効果を長く持たせたり、低毒性、低臭などのメリットがあります。
ドライフロアブル  フロアブル剤と同じですが、粉体で販売されています。水に加えるとフロアブルになります。調製が容易で、軽いなどのメリットがあります。
ジャンボ剤
パック剤
 色々な種類があります。ジャンボ剤は、ゴルフボールぐらいの大きさの粒剤を水田に投げ込みます。パック剤は、粒剤や水和剤を適当な大きさの水溶性パックに詰め、そのまま、または水に溶かしてまきます。まく量が少なくて済み(原体の量は変わらない)非常に省力的です。
天然発ガン性物質と農薬
 発ガン性に関して言えば、残留農薬よりも食物にもともと含まれている有害天然化学物質の量の方がケタ違いに多く、その影響の方が大きいのです。具体的には例えば動物実験で発ガン性がわかっている天然化学物質とその含有量は、
食品
化合物名
含有量(ppm)
パセリ
メトキシプソラーレン
14
セロリ
同上
25〜0.8
キャベツ
シニグリン
590〜35
オレンジジュース
リモネン
31
黒コショウ
同上
8000
ジャスミン茶
酢酸ベンジル
230
コーヒー豆
クロロゲン酸
21600
 他にもいっぱいあります。
 なお、ここで上げた食品が発ガン性物質を含んでいるからダメだと言うことではありません。人間はそういった物に対処するだけの十分な解毒、免疫機能を備えていますから、上の食品が健康に悪影響をただちに与えるという物ではありません。また、これらは例外ではありません。天然化学物質の内の約50%は変異原性があり発ガン性物質の可能性もあるとの研究もあります。

  「ガンの原因として最も考えられる物はなにか?」を主婦とガン研究者それぞれにアンケートした結果が左の図。目盛りは%。いわゆる専門家と主婦でこれほど考え方が異なるのは何故なのかはともかくとして、化学物質の摂取量は人口のものより天然のものの方が量も種類も桁外れに多く、しかもその毒性もよくわかっていない。

 一方、残留農薬は動物実験で発ガン性が認められていなくて、残留量は通常0.1ppm以下、多くて1〜数ppmですから、残留農薬の発ガン性を過剰に気にすることがナンセンスではないかと考えています。

 暮らしの手帳1990年4・5月のデータをグラフ化
 
フェロモンで害虫を防ぐ
 フェロモンといっても色々な種類がありますが、防除に用いられるのはセックスフェロモン(性フェロモン)です。メスがオスを誘引する作用があります。そこで、フェロモンでオスをトラップに集めて殺せば防除できるというアイデアにつながりますが、実際には効果があまりありません。あっちこっちから高濃度のフェロモンが流れてくると、どこからフェロモンが来ているのかわからなくなってしまい誘引されないのです。
 そこで交信撹乱法というのを用います。これは高濃度のフェロモンを農場付近の空気に満たしてやることで、オスのフェロモン受容器が満杯になってしまい、本当のフェロモンが流れてきても反応できなくなってしまう。あるいは、どこからフェロモンが流れてきているかわからなくなってしまい、オスとメスが出会うことが出来ません。その結果、卵が生まれず、次世代の密度が低下するという方法です。
 この方法の欠点は、まず風に弱い。広範囲を一気にやらないといけない。長い期間(3ヶ月〜3年ぐらい)にわたって、フェロモンの濃度を保たなければならないことなどです。
 それらの条件を満たす農場(盆地型であったり、広範囲で共同防除できたり)では一定の効果を上げますが、小さな農場、ましてや家庭園芸や庭木などでは効果は全く期待できません。
ジェネリック農薬
 農薬や医薬品の開発には金がかかるわけですが、それに見合うだけの利益が開発者(開発メーカー)にないと理不尽です。そのために特許制度があって、発明者以外が無断でその発明で儲けることを禁止しています。ただし、特許で独占的な利益を得ることが出来る期間は日本では20年。それ以降は特許権が失効して誰でもその発明を自由に使うことが出来るようになります。そういった特許切れの農薬を別の会社が生産して売り出している商品をジェネリック農薬と呼びます。有効成分は同じですが、日本では製法や製造所の変更による新たな不純物の混入の危険性があることから、ジェネリック農薬にも新たな安全性試験を義務づけています。科学的に考えれば内容物が不純物も含めて同じであれば毒性も同じはずですから、2001年頃をめどに、一部の試験を免除する方向で行政サイドで検討されています。
 ジェネリック農薬は後発メーカーでも簡単に儲けることが出来そうですが、実際には新たな工場の建設やノウハウの蓄積が必要で相当な投資が必要です。先発メーカーはすでにそれらの減価償却を終わっているので、後発メーカーは自らの利益率を削らざるを得ず、かなり苦しい商売になっているようです。また先発メーカーはジェネリック農薬の値下げ攻勢に付き合って値下げしなければいけないのでつらいです。その値下げ分は、農家への普及活動(使い方の指導)の減少などへしわ寄せされるので、あまりいいこととは思えません。
 そうはいうものの、コストの安い東南アジアなどの工場から輸入されたジェネリック農薬は、国内の正規品に比べて半値以下の場合もあり、農家から見れば魅力的な商品であることは確かです。日本の農薬流通の約半分を握る全農は農家への販売価格を下げるために、農薬を直接輸入販売をさらに進める方針で、マンゼブに続き、今度は2001年をめどに主要殺虫剤のオルトランのジェネリック品を開発販売する予定。今後、続々と主要農薬の特許が切れるので、ジェネリック農薬は増えていくでしょう。
 なお、最近ホームセンターなどで、ラウンドアップなどの除草剤のジェネリック品が安い価格で売られていますが、中には農薬登録のないものも含まれています。線路や道路などの非農耕地ならかまいませんが、農耕地用に無登録品を使用するのは法律違反ですし、産地の信頼をなくすことにもなりかねないことだと思います。
ホームセンターで売っている除草剤の成分と、草が枯れる理由
ホームセンターで売っている除草剤の成分はだいたい下記の3つです。それぞれの特徴と値段などを考慮して選んでください。
1、グリフォセート(グリホセート)、スルホセート  商品名は「ラウンドアップ」「タッチダウン」など
 植物が成長するために欠かせない必須アミノ酸であるフェニルアラニンやトリプトファンの合成酵素を阻害します。植物はそれらアミノ酸を生合成することが出来ず、枯れてしまいます。アミノ酸の生合成を阻害されても、しばらくは生きることが出来るので、枯れるまでに少し時間がかかるのが難点です。人間はこの酵素を持っていないので、害を受けることが無く毒性が非常に低いのが特徴です。世界で一番売れている除草剤で、植物の一部についただけで全身に移行して根まで枯れさせるのが人気の秘訣です。草に直接かける必要があり、薬剤が土壌に落ちると速やかに分解します。
2、グルホシネート  商品名は「バスタ」「ハヤブサ」など
 植物が成長するために欠かせない必須アミノ酸であるグルタミンの合成酵素を阻害します。植物はグルタミン酸とアンモニアからグルタミンを合成するので、この酵素が阻害されると、体内にアンモニアが蓄積し、その毒性で枯れてしまいます。ですから、1より枯れるまでの時間は早いが、根を枯らす作用はやや劣るようです。1と同じく、人はこの酵素を持っていないので毒性が非常に低いのが特徴です。草に直接かけなければならないことや、土壌で速やかに分解する点なども1と似ています。
3、2,4D(2,4PA)を含む剤  商品名は「クサノン」など
 2,4Dは1940年代に世界初の除草剤として登場。世界中の田畑で除草剤というカテゴリーを確立する一方で、ベトナムでは枯葉剤として用いられるなど多彩な経歴を持つ剤です。植物が自らの成長を調節するために用いている植物ホルモンの働きをかく乱します。枯葉剤でのイメージや過去の生産品には悪名高いダイオキシン類が含まれていたと言われ、2,4Dのイメージはあまりよくありません。しかし、現在はダイオキシンの混入も認められておらず、植物ホルモンは人間のホルモンとは全く違うものであり、元来人に対して安全性の高い剤です。草に直接かけるだけではなく、土にまいても活性があるのが特徴で、よってしばらく抑草効果が続きますが、もともと効果は弱い方なのでどんな雑草にでも効くわけではありません。粒剤でそのまま土にまくだけで良いものも売られているので根強い人気があります。
 普通、除草剤は水に薄めてまきますが、最近は最初から水に薄めてスプレーになって売られているものもあります。非常に割高ですが、まく時に楽なので庭など小面積を楽に除草したいときは便利でしょう。
ホームへ戻る   農薬ネットトップページへ戻る