生物農薬

 現在注目されている生物農薬ですが、どのようなものが実用化され、また研究されているのか見てみましょう。

1、種類

 生物農薬と一口で言っても、色々な種類があります。生物農薬の定義はあいまいで、狭い意味では生物その物を使う場合をさし、広い意味では生物由来の物質を使う場合も含みます。このページでは、狭い意味での生物農薬を扱っています。現在、日本国内で使用可能な生物農薬は約50種類。

生物農薬の種類

昆虫・ダニ
寄生蜂、カブリダニなど肉食の昆虫・ダニ類
線虫
人間につく回虫と同じ仲間。昆虫寄生性の線虫
菌類
カビやキノコの仲間。BT菌・トリコデルマ菌など
生物由来の物質
抗生物質・フェロモンなど
 防除対象は圧倒的に害虫が多く、病害を防ぐものもあり、ごく最近になって除草に使えるものもでてきました。

2、歴史

 明治の初期、鎖国から開国すると同時に海外から色々な作物と害虫が入ってきました。それらに対する天敵が日本にいなかったので大きな被害をもたらせました。このころには害虫防除における天敵の働きが重要であることが既に認識されており、海外から天敵の輸入にも努め大きな効果を上げました。日本に定着した天敵昆虫もいます。
 1950代に結核などに効果の高いペニシリンの発見の影響もあってか農業用抗生物質の探索が日本を中心に行われ、現在も使われているカスガマイシン(カスミン)やバリダマイシン(バリダシン)やブラストサイジン(ブラS)などが生まれました。最近でもミルベマイシン(ミルベノック)やエマメクチン(アファーム)などが登場しています。
 一方、昆虫同士の情報伝達に使われるフェロモンという物質の研究は1950年代ごろに盛んになり、害虫防除への応用も図られましたが、思ったほどの効果はなく沈静化していました。しかし、1980年代に交信撹乱法という新しい使用方法が開発され、現在では有力な防除手段となっています。
 菌類では1954年に土壌病害の防除用にトリコデルマ菌が発売されたのが最初です。殺虫性タンパク質を産生するBT菌は1981年に実用化され、幅広い鱗翅目害虫(チョウ・ガの仲間)に効果が高く、使いやすいことから普及は進んでいます。BT菌の殺虫性タンパク質を作る遺伝子が発見されて、それを作物に組み込んだ遺伝子組換え作物もアメリカを中心に実用化しています。
 除草に使える生物農薬としてXC菌(キャンペリコ)が1997年に発売されたました。これはゴルフ場用ですが、水田用などの研究は続けられています。

3、利点

1、化学農薬と異なり自然界に元々存在している物を利用していることから環境への残留性がない。
2、毒性が低く、まく人に危険がない。(抗生物質類には毒性の高い物もある)。
3、抵抗性がつく可能性が低い。
4、クリーンイメージがあり、有機栽培にも使用可能。収穫された作物が高い値段で売れる。
5、直接的には防除対象となる生物だけに効くのでリサージェンスの心配がない。
6、土着の天敵への悪影響が無く、防除対象となる生物以外にも間接的に効果が出る場合がある。
7、化学農薬で防除不能なものに効果がある場合がある。
 

4、欠点

1、まくのが面倒なものが多い。
2、化学農薬ほど効果の切れ味がなく、効果が安定しないこともある。
3、値段が高い。長期保存が出来ない。
4、天候などに効果が左右されやすい。ただし、ハウス栽培ならその心配はない。
5、防除対象となる生物にしか効かないので、化学農薬など他の防除法と組み合わせなければならない。
6、適用できる作物が非常に限られている。
 

5、法律

 生物農薬も化学農薬と同じように農薬取締法で規制され、基本的には化学農薬と同じ試験をパスして登録を取らなければなりません。しかし、毒性試験などの一部は減免されています。国際的にも同じ傾向です。
 また、適用が広く取られるのでマイナー作物に対する使用も可能となります。

6、主な生物農薬の紹介(写真は生物農薬ガイドブック:日本植物防疫協会から転載)

チリカブリダニ(商品名:スパイデックス)

 ハダニを食べてくれる肉食のダニ。1ビンあたり2000匹のチリカブリダニが入っていて、1匹につき1日5〜20匹のハダニを食べる。ハダニを食べ尽くすと、チリカブリダニもいなくなってしまいます。

スタイナーネマ・カーポプサエ(商品名:バイオセーフ)

 右の写真は幼虫で体長0.6ミリ。1ビンあたり約2億5千万匹のスタイナーネマが入っている。水で薄めて1平方メートルあたり25万匹まくと、ゴルフ場のゾウムシ類害虫に効果がある。

オンシツツヤコバチ(商品名:エンストリップ)

 右の写真は成虫で体長0.6ミリ。1カードあたり約50匹の雌成虫が入っている。ハウスのキュウリで25株に1カードの割合で茎にひっかけると、難防除害虫のコナジラミを防除できる。雌だけで繁殖できるので雄は必要ない。

 

枯草菌(商品名:ボトキラー)

 納豆菌と同種の菌で、病気が発生する前にまくと、葉っぱの上で増殖して、病原菌が繁殖する場所を奪ってしまう(拮抗作用)。ナスなどの灰色カビ病に効果がある。有効期限が3年で化学農薬と混用できるなど、従来の農薬と同じように扱える点は特筆に値する。

 

キャンペストリス菌(商品名:キャンペリコ)

 ゴルフ場の雑草であるスズメノカタビラに効果がある。右の写真は普通のスズメノカタビラと菌で枯れたスズメノカタビラ。植物体の傷口から侵入するので、芝刈り直後で雑草にも傷が付いているときにまかなければならない。

トリコデルマ菌(商品名トリコデルマ)
ラジオバクター菌(商品名バクテローズ)

 共に土に住んでいる菌の一種です。前者は土壌にすき込むとタバコの病害に効果があります。後者はバラの根に付着させてから植え付けると根の病害に効果があります。

パスツーリア菌(商品名パストリア)

 メロンなどの病害の原因となるネコブセンチュウにとりついてしまう細菌。連続で使用すると土壌で増殖して数年間効果があるといわれています。右の写真の細長いものがネコブセンチュウ。丸い粒がパスツーリア菌です。

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