家庭で残留農薬を洗い落とせる?

 野菜にはどれぐらいの量の残留農薬があって、それは洗ったり調理したりするとどうなるのかを見てみましょう。そして、農薬を落とす目的で洗うことに意味があるのか考えてみます。

 データは主に「食品中の残留農薬平成10年版」(厚生省)「残留農薬の調理加工による減衰」(伊藤誉志男ら武庫川女子大グループ)からとりました。


 農薬といってもいろいろな種類がありますので、正確にはどの作物にどの農薬が残っているかによって話は変わってきます。話を簡単にするためじゃがいもとピーマンについてみてみましょう

じゃがいも

 じゃがいもにはどれぐらい農薬が残留しているのでしょうか?平成9年度の調査結果では約8000点ぐらいの分析を行って何らかの農薬が検出されたのが12件となっています。99%以上のじゃがいもから農薬が検出されなかった(検出限界以下)ことになります。

 しかし、それでは調理による減少を実験できませんから、じゃがいもにわざと0.1〜1ppm(残留基準値程度)の農薬を添加して、調理後の減少を見ています。それによると以下のようになっています。

洗浄 農薬により除去率はことなり、水洗いで39〜99%。
ゆでる 64〜98%
皮むき ほぼ100%
揚げる 一部を除きほぼ100%
炒める 72〜100%


ピーマン

 平成9年度の調査結果では約3000点ぐらいの分析を行って何らかの農薬が検出されたのが42件となっています。約90%以上のピーマンから農薬が検出されなかった(検出限界以下)ことになります。

 同じくわざと0.1〜1ppm(残留基準値程度)の農薬を添加して、調理後の減少を見ています。それによると以下のようになっています。

洗浄 農薬により除去率はことなり、水洗いで26〜47%。
ゆでる 28〜85%
揚げる 一部を除きほぼ100%
炒める 61〜93%

 データを見ると水洗いだけでも農薬が3割〜9割以上も減っています。ただし、実験時の洗浄方法を見てみると、ビンに作物と水を入れて1分間に100回振り混ぜることを水を換えながら5分間行っています。家庭でこんなに激しく長時間野菜を洗う人はいないでしょう。ですから、普通の洗浄による除去率はこのデータを大きく下回るものと思われます。調理は一般的な方法で実験しているので、このデータ程度は減っていることでしょう。皮をむくことがもっとも効果的であることがわかります。

 洗浄時に洗剤を使うと農薬が落ちやすくなるという報告も昭和40年代にありますが、この実験では洗剤を使っても除去率に差はなかったとなっています。

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 しかし、これらのデータはわざと農薬をふりかけた作物を使っています。検出されても添加量の10〜100分の1のレベルです。ですから、家庭で農薬を減らす意味は全くないと言えるのではないでしょうか?
 どうしても気になる人は農薬がたまりやすい部位、果物や果菜類ならヘタのくぼみの部分・野菜なら一番外の葉っぱを丁寧に洗うか取り除くことで対応してください。
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たてきコメント:

 農薬が検出されること自体は特段問題ではありません。仮に残留農薬基準を超過している作物に遭遇したとしても毎日食べるわけではないので、残留農薬の健康への影響は非常に低いと言えるでしょう。洗って残留農薬を減らすのは難しいですし、その必要もありません。ほこりや土を落とす程度の洗浄で十分です。

お隣の農家が農薬をまいて困ります

 農家も住民もいったいどうすればいいのでしょうか?
◆◆住民の感覚◆◆

 「 マンションの真下に果樹園があり、天気のよい昼間に農薬を散布しています。晴れの日は洗濯物をたくさん干したくなるのですが、農薬が飛んできて洗濯物についてしまうような気がします。実際にはどうなんでしょうか。家の中にいると独特のにおいがはいってきます。農家の人が専用のマスクをしているのをみると、不安が増してきます。乳幼児がいるので、神経質かとも思いますが教えてください。 」

 HPの掲示板にあった書き込みですが、住民側の感覚を代表していると思います。きつめの意見で「マスク・手袋の重装備で農薬をまいている農家を見ると、自分たちだけ安全装備して住民はほったらかしか」といったメールもありました。空散(ヘリコプターから農薬をまく)に対する反発も根強いものがあります。

 住民側が上げている問題点をまとめると

1,農薬がどれぐらいが飛んできているのかわからないことへの不安
2,飛んできた農薬による健康への悪影響
3,洗濯物や家が汚れることへの不満


◆◆農家の感覚◆◆

 「臭いだの洗濯物が汚れるだのといった苦情を、申し立ててくる人がいます。その一方では防風垣や樹に虫がいるから駆除してほしいと行って来る人がいます。直接言ってくる人はまだ良い方で、中には市役所などに苦情を申し立てる輩もいてこちらとしては、話し合いをする機会すら与えてくれず、どうすりゃいいの?と言いたくなります」(某農家)

 「田(又は畑)に住宅を建てた方がほとんどなのではないでしょうか。一農家としては後から押し掛けてきた人に文句を言われるのは・・・と思うのですが」(別の農家)

 この2つが代表的な意見です。

 特に後者の方は注目しないといけません。衛星都市の新興住宅地は一般的に農地からの転換であり、農薬をまいている農家にすれば「あとから来てなに言うてんねん」「農薬いややったら最初からこなけりゃええんや」となるわけです。

 では、相互理解のためには、いったいどうすれば良いのでしょうか?
 その前に農薬はどれぐらい農地外に飛んでいか、簡単に説明しときましょう。

◆◆農薬はどれぐらい飛んでいるのか◆◆

 これは剤形によって異なります。一般論として粉剤は100メートル四方以上ぐらいまで飛散するというデータがあります。この飛散することを「ドリフト」と呼びますが、ドリフトは少ないに越したことがありませんから、今はたいていドリフトレス粉剤(DL粉剤)というのを使っています。ところが、このDL粉剤も30メートル四方ぐらいには飛んでいます。

 次に土壌消毒剤をみると、これは土中に処理して気化させますから当然周辺へ散らばっていきます。気体とはいえ臭化メチルなどは空気より重いので地表面を漂いますからすぐにはなくなってくれません。数時間程度は周辺に広がっていくと想像します。

 水で希釈して液体を噴霧する剤ですが、これらは散布方法によります。ヘリコプターや散布車などの大型機械でまくと当然ドリフトは多くなります。数十メートルはドリフトするでしょう。小型の肩掛け式の散布器などであればドリフトはほとんど考えなくて良いでしょう。

 以上ふまえて、解決策を考えると

1,住民と農家の話し合いの機会を作る
 そんなこと出来たら苦労せんわ!と言われそうですが、やはりこれしか解決策はありません。スジから言えば困っているのは住民なんだから住民側から話しかけるべきです。しかし、個人の農家に言えばいいというわけではないので、どこに言いに行けばいいのかわからないのも実状でしょう。

 農家は先に挙げた理由で「話を聞く必要はない」と思っているかもしれませんが、なにも対策せず住民との関係が悪化した場合に、損するのは誰か考えてみる必要があると思います。嫌がらせをうけたり係争に巻き込まれたときに、数が多いのは住民側なのでいやな結果になってしまうのは農家の方になる可能性があるのです。農薬というものが世間的に嫌われているし、マスコミも反農薬サイドにいることも住民側に追い風になります。

 農家は個人で無理なら話し合いの窓口を作るべきです。農協などでも良いのですが、もっと小さな地域での問題でしょうから、青年団などの小回りの利く組織が理想的でしょう。

 住民はまずは当事者の農家に姿勢を低くして相談しましょう。自分たちが住んでいるところが今は街でも昔は農村だった(東京のど真ん中でも)ことを常に頭においておくべきです。そして、役所などにいく前に町内会などに相談しにいくべきです。新興住宅地の住民は町内会などにあまり入っていませんが、町内会の上役は地区の古参住人で農家であることが多いのです。例えばマンションの管理組合で農薬の問題を出し合い、まとめて町内会や農家に相談しにいくようにしたいですね。

2,農家は自主規制を
 1の解決策は理想的すぎるというご意見もあるでしょう。では、農家の方はせめてもの自衛策と住民へのサービスとして、使う農薬とまくタイミングに気を使ってやってはどうでしょうか?例えば、

 1,粉剤や土壌消毒は極力避けて、粒剤にする。
 2,溶剤臭がする乳剤はやめて水和剤やフロアブル剤にする。
 3,においのきつい有機リン剤はやめる。
 4,散布は風の強い日はさけ、午前中、できれば早朝に済ませる。
 5,散布スケジュールを近所に知らせておく
 6,安易な農薬散布は避ける

3,住民は決して感情的にならず建設的に
 農家の気持ちを考えて上げてください。あとから来たよそ者に文句を言われることや、直接対話する前に役所から人が来たりすることが、どんなに気分の悪いことか想像してみてください。きっちり筋を通して、冷静に2で上げたようなアイデアを提案してみてください。もしもそのために農家がコストアップを余儀なくされるなら、その一部を負担してやるぐらいの用意も必要です。得するのは農家ではなく自分なんですから。
 以上が提案です。「そんなうまいこといくもんか」と言われる方もおられるでしょう。それも承知の上で少しでも理想的な方向へお互いが進んでいただきたいと思います。
農家は自分用の野菜には農薬を使わない?

 「農家は自家消費用には農薬は使わない」という話がよく出てきます。 もうちょっとつっこんだ「農薬は危ないから自分たち用には使わないと 農家が言っていた」という話の場合もあります。
本当でしょうか?

 私も北海道で、タクシーの運転手から 頼みもしないのに「あんたら都会もんは知らないだろうけど、おれらは自分 たち用には農薬を使わないから、おいしくて安全なものを食べられる。」と ペラペラ「教えて」もらったことがあります。
いきなり結論ですが、「農家は自家消費用には農薬は使わない」という話は本当ではありません。いくつかの事実誤認と 大いなる矛盾が隠されています。

●まず1番目の事実誤認はそんな事実は必ずしもないということですね。 そういう農家の方もおられます。でも大抵の農家はそうじゃない。 それに農家だっていろんな野菜や果物をスーパーで買ったりしています。 自給自足してるわけじゃないので、自分の分を無農薬でやったとしても どれだけ意味があるのかどうか。

●2番目に「農業」というものを誤解していませんか?という点。 「農業」は「業」ですから作って売ってなんぼの世界です。売り物の野菜や果物は、傷もなく形もそろっています。必要な時期に必要な数量を適当な価格で用意する供給責任もあります。 そして利益も稼ぎ出さなければなりません。そういうものを作るのと、 自分が食べるものを作るのでは目的が異なりますから、栽培方法も当然異なってきます。よって、自家消費用と販売用を比べてもあまり意味無いと言うことです。
 弁当屋のおばさんがお店では料理前には手を消毒液で消毒して、マスクや 頭巾をして、きれいな弁当を出していても、家では手抜き料理で盛りつけを 省略していたとしても当然のことでしょう。同じ理屈ですね。消毒液や マスクが農薬に該当します。つまり自家消費用の野菜はきれいでなくても 良いし、供給責任もないので農薬を使う必要がないということですね。

●3番目は農家が言う「危険」とは「農薬散布」の危険を指す場合が多いと いうこと。農薬原液はもちろん、散布用に薄めた液でも触れたり口に入ったりすれば決して安全なものとは言えないし、一歩間違えれば目を痛めたりかぶれたりなどの被害が出ることもあります。そうでなくても、臭かったり、まくのが面倒だったりなどのデメリットがあります。さらには農薬代がもったいないというのも理由になります。しかし、食べてどうかというのはこれらとは無関係な話であり、農家にとって危険=消費者にとって危険ということではないということですね。

「農家は自家消費用には農薬は使わない」という話は、普段農薬を取り 扱っていて農薬に詳しい農家の人が言っているのだから間違いない・・・・ というニュアンスが含まれています。消費者は農薬など見たことも触った こともありませんから、「実は私は詳しく知らない」と自覚していて、 「詳しい人(農家)」の意見を引用しているわけですね。

●では、「もっと詳しい人」である農薬業界や行政関係者が「農薬の安全性は様々な試験で裏打ちされ、通常使用では食品として問題はない」と言っていることは、なぜ無視するのでしょうか?

●農薬業界や役人は情報公開不足を指摘されていますが、その裏には都合の悪い情報があるはずだ、農薬の危険性を隠しているはずだという推論あるいは想像があります。さらに、商業主義だからとか、自分たちは農薬で儲けているから否定できないといった考え方もあるわけです。

●その「裏情報」を知っている業界人が農薬使用や一般栽培作物を危険視しないのはなぜなんでしょうか?農薬業界人は私が知る限り好んで無農薬栽培 作物を買っている人はいないという事実があります。問題があるならば、 業界人は農薬を売るだけ売って儲けておいて、自分たちはそれら使用作物を 購入しないという卑怯な消費行動に出るべきです。 「農家は自家消費用には農薬は使わない」という話は農家はそういう 消費活動をしているという指摘ですが、農薬について裏も表も知る 「農家よりもっと詳しい人たち」がそういう消費活動をしないという事実を 直視できないなら、指摘自体が矛盾をはらんでいることにもなるのです。
妊娠中に農薬に触れたのですが、 大丈夫でしょうか?

 妊娠中は人生の中で一番慎重になる時期で、細かいことでも気になります。 農薬に関して言えば、 「妊娠中ですが輸入作物を食べてしまい、残留農薬が心配です」とか 「農家が農薬散布してるところに遭遇して農薬を浴びてしまった」とか 「農薬で奇形児が生まれるという記事を読んだけど本当か」などいろいろな相談事が私の所に来ます。
●その答えですが「全く心配いりません」が結論です。 理由は明確で大きくは以下の3点です。

 1:農薬などによる催奇形性(胎児に奇形を生じること)は妊娠のごく初期、 (0〜10週ぐらい)に起こりうることで、以降の期間では心配いらない。
 2:農薬の催奇形性試験は動物実験で毎日のえさに多量に混ぜて食べさせて行うものであり、一度や二度の農薬摂取とは話のレベルが違う。
 3:残留農薬基準は作物ごとに決められており、全ての作物で基準値を超え、 しかも、、毎日その状態になった場合を想定したものであり、例え基準値を 超えるものを食べても一度や二度のことならば健康上の心配はない。

●昔、DDTなど残留しやすい農薬が使われていた頃に、 それらを毎日食べていたならば不安もあったと思いますが、現在はそのような状況ではありません。

●妊娠中の食事に関して言えば、月並みですが、肥えすぎ痩せすぎに気をつけて、栄養バランスに気をつけ、カルシウムや鉄分を多めにし、 便秘をしないようにすることが大切で、そのことだけ考えておけば良いでしょう。
 細かなことで精神状態が悪化するのが一番よくないです。 農薬のことなんか心配せずにバリバリおいしいものを食べましょう。

●ただし、農薬によるリスクを低減した方が精神状態が良くなるという方もおられるでしょう。そういう方は気休めでも無農薬栽培のものを買うとかして自分で自分を納得させるようにすることも否定はしません。ようは、好きなようにやるのが一番だって事です。でも、日本においては農薬リスクは考えなくて良いですから、あまり思いこみすぎませんように。
減農薬と減残留農薬は違います!

 消費者アンケートでは減農薬栽培の野菜を値段が2割ぐらい高くても買うという結果が出ます。その真偽はともかくとして、なぜ減農薬なら付加価値を感じるかといえば、それは安全な作物なんだろうという思いがあるからです。安全な作物とは何かといえば、残留農薬がない、あるいは少ないということを意味でしょう。これが果たして事実なのか?
減農薬とは普通栽培に比べて農薬の散布回数が半分以下の物をさします。
普通栽培の農薬散布回数は、例えばリンゴで青森は36回、おとなりの岩手は41回などとなっています。この半分の回数なら減農薬ということになります。農薬がどれぐらい使われているかは防除暦というものを見れば見当がつきます。
 
●りんごの減農薬防除暦を見ると減農薬栽培は使用回数がなるほど半分以下であることがわかります。インチキはないですね。しかし、よく見ると冬〜初夏にかけての農薬散布は減っていますが、収穫直前(りんごなら8〜9月)の農薬散布はそんなにかわらようにみえます。実がなってからは病虫害が実につくのを防ぐ必要があるからそうしてるわけですね。りんごに限らずどんな作物にも当てはまる図式です。
 
残留農薬という観点で見れば、収穫直前にまかれた農薬が一番重要です。正確なデータは見たことありませんが、残留農薬のほとんど全てが最後にまかれた農薬に起因すると思われます。ですから、減農薬栽培といっても減残留農薬を指すわけではないことがわかります。実際、分析してみても慣行栽培と減農薬栽培では残留農薬が検出される割合はあまり変わらないことがわかっています。
全く化学農薬を使わない有機栽培でも様々な理由により検出されています(下表参照)

●減農薬栽培では栽培前半の病害虫の予防を省略することがあり、最後の方にかえって多くの農薬がいることも珍しくありません。また、回数を減らすために残効の長い(=残留しやすい)農薬を使おうとする気持ちが働きます。そうなると減農薬栽培の方が残留農薬が多いという逆現象も起こりえます。もちろん減農薬の手法も様々ですから、そうじゃない例も多々あります。
 
●多くの消費者は農薬をご飯のふりかけみたいなイメージで見ていて、たくさんまけばまくほどたくさん残留すると思っているようですがそれは大間違い。減農薬=減残留農薬ではないということを覚えておいてください。



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